ペヨトル興亡史  

今野裕一著 冬弓舎 \2,100 ISBN:4925220047
これは今の私には本当に価値があった。ちょうど今がこの本を読むタイミングだったのだと思う。今じゃなければこの本にここまで価値を見出せなかったかもしれない。兎に角、できるかできないか、安全な道を探す前にやりたいことはやっちゃえばいいのだ。確実な道を探すことばかりして肝心のやりたい対象のものを置き去りにしてる場合じゃない。なんだってその気になればできるのだ。なんというか私は思い切り足りないよなぁ。
この本を読んでいて、内容以外のところである事に気づいた。文中に何度か伊藤若冲の名が登場していたのだ。私はもともとペヨトルの本は十代の終わりに渋谷のパルコブックセンターで始めてみた時から気にかかっていたのだが、その関心の持ち方は幻想文学に対するそれと同種のものであった。
私が伊藤若冲を知ったのは数年前、正月のNHKの特別番組を見たときだった。彼のにわとりが印象的で、私の心をつかむだけの力がテレビの画面を通してさえもあった。それから暫くしてたまたま京都にケーキを食べに行ったときにどっかの寺の付属の美術館で若冲展を細々とやっていたのだ。実物を見たのはそのときが初めてだったけれど、やはり私は問答無用で若冲が好きだと感じた。
伊藤若冲とペヨトル、世界が重なることなどないと思っていたけれど重なっていたのだ。私が好ましいと思うものを評価する人々とは、分野が違っていても自ずと興味の対象が似てきてしまうのだ、きっと。そこに気づいて私の心はなにか、一つ高いところにあがった気がした。今までも確実に存在していたのに気づいていなかったものが見えた気がした。これがこの本を読んで一番強く私の心に印象を残したところだと思う。