証明書

6月に受けたフランス語検定5級の合格証明書が本日届いた。4月からラジオ講座を利用してフランス語の勉強を始め、自分を勉強へと駆り立てるためにその時点で検定に申し込んだ。しかし私は自分の性質を完全に失念していたのだ。なぜなら試験などと言うものを受けるのは大学院入試以来、かなり久々のイベントであったからだ。私は受験勉強が嫌いであることは常々自覚していたけれど、こんな検定なんて落ちても受かっても何の役にも立たないし、なのでプレッシャーに負けることなどないだろうと自分の試験嫌いを完全に甘く見ていたのだ。ここまで書けば十分だろう、私は、試験嫌さに勉強全体の98%ほどを放棄してしまったのだ。
ラジオを聴いても、文法事項を自分なりに掘り下げること(本来そこに私が感じる語学の面白さがある)をせず、これを覚えれば試験に受かるというスタンスになってしまったのだ。すると途端に勉強が面白くなくなるのだ。コミュニケーションを取るため、その国の文化をより理解するため、身近にあるカタカナフランス語の意味を正確に知るため、言葉の成り立ちからそれを母語とする人々の思考パターンを解析するためではなく、単に試験に受かるための勉強。面白くなくて当然であろう。意地でラジオを聴き続けたけれど、去年ロシア語にチャレンジしかけたときと同様ほとんど内容が耳に入ってこなかった。よって、検定を受ける6月、私はいまだに動詞の活用すら覚えられず、avoir etreなどの重要な不規則変化の動詞すらもうろ覚えという状態であった。試験を受ける前日にはストレスがピークで半ば逆切れするみたいに映画(ベジャール、バレエ、リュミエール)を見に行き、見終わった後には翌日のことを考えて「死にたい、絶対落ちる、2000円どぶに捨てたのと同じ、死んじゃいたい」などと無様な姿をさらした。
試験当日は更に運悪く大変ハラ具合が悪く、試験会場に向かうまでも何度か気絶しかけた。そんな状態で試験を受けてみたならば、筆記がなぜかあっという間、5分程度で終わってしまった。おなか痛いし見直す気もしないしでぼーっとしていたのだけれど、ふと気づいて周囲に意識を向けると、いまだにすごい勢いでカツカツと鉛筆を鳴らしたり消しゴムをグワーッとかけたりといった音が聞こえる。そんなにいっぱい書かなきゃいけないような問題あったか?マークシートなのに、と私は得体の知れない不安に襲われたが、かといって見直してる場合じゃない。ハラが痛いのである。なんとかリスニングまでに小康状態に持っていきたいと思い、実際ある程度落ち着いてはくれたが依然として一触即発状態、ハラに爆弾抱えているようなものである。そんな状態でリスニングなど集中できるわけがない…。
試験が終わっても私自身殿程度できてどの程度間違ったのか全く検討がつかない。出口で解答を配布していたのでそれを一部つかみ、四谷アトレのスープストックに赴いてハラを暖めるスープを頼みつつ自己採点に果敢にも挑戦したのであった。もうどきどきしちゃって目線は泳ぐし手先は震えるしで何度も解答を見間違い、正しくできているところにバツをつけたりしながらもようやっと最後まで採点ができた。リスニングで1問ミスの98点であった。もう、その数字見た瞬間に天に上るような心持になり、調子づいて、なあんだ、こんなことなら4級受ければよかったじゃん、などと思い始めた。我ながら相当現金な正確をしていると思う。
その仏検5級の合格証明書が今日届いたのだ。表書きがフランス語、裏が日本語で書かれたその証明書、表側には姓名の前にMademoiselleと記されてあった。未婚女性に対してはそれがたとえどんな女性ではあってもMademoiselleを適用するので当然なのではあるが、私自身それを目にした瞬間には「マドモワゼルか」とうれしさ交じりの居心地の悪さを感じた。何はともあれ、せっかく合格したのであるから大事にしないとね。