ナカータの思い出

ワールドカップ関係の番組を見ていた折に、何度かアナウンサーだか解説者だかが「中田は最後のワールドカップ」と言うようなことを言っているのを耳にし、私はてっきり中田がもう年だからこのアナウンサーだか解説者だかに勝手に次のワールドカップはありえないだろ、と判断されているのかと思って、すごいことを断言/公言するなぁと半ば感心しつつ面白がっていたのですが、実際は本人が次はないと言うようなことを言っていたのですね。その事実を知る前は私は中田と同じ76年生まれとして、本人の意思に関わらず周囲が「もうダメだ」と判断するような年頃に差し掛かったことに悲哀を感じたものでした。
3年前私が数ヶ月フィレンツェにいた頃、中田はパルマだかボローニャだか忘れたけれど兎に角エミリアロマーニャのどこかでプレーしていて、イタリアで日本人というとまず中田が浮かぶというような認知度で、それは私の私見では中田がそれだけ有名かつ人気があったと言うよりは寧ろ他に知られるような日本人があまりいなかったというだけのことなのだと思うのだけど、話し好きのイタリア人は街中で人を見かけると手当たり次第に声をかけてきて、こっちが驚くくらいのことを会話の糸口にしてきて、その糸口に主に使われていたのが「ナカータ」だった。
よくイタリアに住む日本人たちから街中歩いているといきなり「ナカータ」っていわれるよ、とは聞いていたのだけれど、実際に自分が言われたときは絶句した。意味わかんなくて。フィレンツェにはカッシーナという市が毎週火曜日だったかな、決まった場所でたつのだけれど、フラフラ市を見物しつつあるいていたらゴロツキ風若者が2〜3名連れ立って前方から歩いてきて、それだけだったらこちらも全く意に介さないのだけれど、彼らが私の前方2m程度の距離に差し掛かったときにいきなりきた。ニヤケ面で唐突に「ナカータ」って。意味わかんない。いや中田じゃないし。別に彼らイタリア人も私やその他の日本人が中田であるとは思ってないんだろうけどさ、ただ話し掛けたかっただけなんだろうけどさ、にしても「ナカータ」はあんまりじゃないですか。意味わからなすぎて。もうちょっとこう、自然にどうにかできないかね。
不自然極まりないと言えば、こんなこともあった。バスから降りて住んでた家に向かって歩いてたら後ろから50代くらいの小柄なオジサン(だけど腹具合はまるでビヤ樽)が付いてきて、これはいかん、隙を見せたら話し掛けられてしまう*1、と身構え「話し掛けてくれるな」というオーラを全身から全力で滲み出したのだが、そんな程度のことで怯むイタリア人ではなかったよ。いきなり「ヨコヅナ」「タカノハナ」とか言い出して吃驚して反射的に振り向いてしまったときに私の視界に映ったそのオジサンの、さも「してやったり」というような満足げなニヤケ顔といったらないよ。これでコミュニケーションの線が接続されたと言わんばかりに話し掛け始め、しかも何故かぶしつけにも「体重はどれくらいか」と聞いてくる。意味わかんないし怖いし体重なんか教えたくないしで黙っていたのだけれど、ヨーロッパ人に対して沈黙で対処して相手にわからせるというのは手段としては全然無効であったよ。しつこく体重をきいてきて、イタリア語が通じないのかと思ったのか身振り手振りで「私は99キロ、君は何キロだ」と繰り返す。しょうがないから「教えたくない」と答えたらなんていったと思いますか?「君は体が小さいから子供用の服を買って着なさい」だって。余計なお世話だよ!ちなみに私、別にチビじゃないですよ。非常に標準的身長です。158cmだから。イタリア人だって欧州では然程大きいほうじゃないくせにさ。オランダ人から見たらイタリア人なんて全員小人だよ。日本人も無論小人だろうけどさ。ていうかオランダ人大きすぎ。大きすぎて圧迫感だよ。
とにもかくにもそのオジサンだけれど、私が唖然としつつも家の前に達したので家に入ろうとしたら大変人のよさそうな笑顔で「そこが君の家なんだね、またね」といわんばかりの表情で優しく穏やかに手を振りながら去って行ったよ。本当に訳がわからん。イタリアに数ヶ月滞在していたというと下卑た男が低俗にも「やっぱりイタリア人にしょっちゅうナンパされたの?」と聞いてくることがあるが、大概のイタリア人との唐突に始まるコミュニケーションはこんなもんだよ。そもそも日本人の女がイタリア旅行中にやたらイタリア人に声かけられたと思ってるのも殆ど勘違いなんじゃないの?確かに老若男女問わず親しげに声をかけてきて、若い男の中には「あわよくば」と思っているものもいると思うけどさ、そもそものモチベーションは喋りたいだけなんだと思うよ、あの人たち。日本におけるナンパとは大分趣を異にすると思うね。

*1:こういう状況で危険なことは殆どなくて、大概話し掛けたいだけのものだ。