アイスクリームの科学

子どもの頃、冷凍庫から出したばかりのアイスにスプーンを差し込むと、一番最初にスプーンの先が触れた近辺のアイスが溶けるのを不粋に感じたものだった。テレビのCMのように何とか美しく一匙目をすくいとりたい、そう思った当時小学生の私は子どもながら考えられるだけ工夫をしたものだった。食べ始める直前までスプーンを冷凍庫で冷やしたり。私はスプーンの持つ熱(常温程度でもアイスからしたら相対的にかなり温度が高いだろう)を取り去ればアイスも溶けないと思ったのだ。しかし何度試してもダメ。絶対にアイスは溶ける。暫くそんなことに注意する日々が続いたがどうにもならない現実の前に私はいつしかアイスについての拘りを捨てていた。
しかし数年経って高校の物理の授業で熱力学を学んだ際にようやく子どもの頃の謎を解決することが出来たのだ。アイスはスプーンの熱で溶けるのではなく、スプーンをアイスに押し付けるときの圧力で溶けるのだ。だからスプーンをいくら冷やしたとしても結果は変わらない。これに気づいたときは感動したなぁ。物理ってなんて面白いんだろう。世の中全ての人が物理を学べばいいのに。それはさておき真実を知ってからというものアイスのCMの、スプーンですくった後の不自然なアイスの状態に美しさを感じなくなってしまった。だってニセモノなんだもん。美しくないよ。
とは言いながら、私は今ハーゲンダッツのアップルパイが食べたい。焼きたてアツアツのアップルパイにバニラアイスを添えて食べるのは好きだが、それが全部いっしょくた、ごたまぜ状態でアイスになってるなんて、どんなことになってるのか想像もつかない。誰か病気の私に差し入れてくれないだろうか。