シュマン

3ヶ月ぶりのシュマンである。すっかりメニューは秋らしくなっていた。食前酒はいつもどおりシャンパンのフレッシュジュース割り。どうでもいい話だが昔付き合ってた人がシャンパンを「シャンパーニュ」と言ってたのが鼻についた。いや、フランス語的には正しいのは分かるけどさ、フランス語喋れないじゃん、と内心常に思っていたのだがそれを言い出せなかった自分にも失望だ。そんな話はどうでもよいのだが、今回はパンプルムースと洋ナシのジュースで割っていてそれはそれは大変においしゅうございました。さすがオーナーがソムリエだけのことはある。しかしもうこの程度じゃ酒だと思えなくなっている自分をそこに見出してしまって物悲しくなってしまった。大学生になってカクテルを飲み始めた頃の初々しさは一体どこへ。
前菜一品目は恒例の人参ムース。3ヶ月ぶりの人参ムースである。注文の際にこの語を自分の口から発すると思うだけで顔がにやけてくる。なんという幸福だろう!人参ムース!人参ムース!!これが食べられるなら私は死んだっていい。しかしあんなにニヤついて食す姿はまさに変態。最低だ。きっと私は食い意地で死ぬ。正岡子規ばりだ。前菜二品目は常に温かいものを注文するようにしているのだが、今回はコヤリイカの中にレタスと江戸前アナゴが入っていた。皿の中心にはターメリックを効かせたリゾットが。イカのソースは赤ワイン(何とかいう名前だが判然とせず)を煮詰めて作ったもの。私はこの、軽く火の通ったレタスというのは実に旨いと思う。オイスターソースで軽く炒めても美味しい。などと書くと料理できる風だが作れない。人に指示して作らせたことはあるが出来上がりがイマイチだったので非常に的確に批評したら嫌われた。この二品目の最中に店の方に何か飲むか問われグラスの赤と即答した自分に驚いた。まだ昼間だったのに迷うことなく赤を所望してしまった。これがまたうまいのなんの。ボルドーだったんだけどペトリュスの生産者が作ったとかで、もう香りは華やかなんだけど味わいはしっかりしてるの!ブルゴーニュが好きだと思い続けていたが、それが単なる思い込みであると判明した一瞬でもあった。最近胃の調子悪くて食生活に喜びが見出せないことが多いのだが、何故か赤ワインだと飲めるのだ。なんか、ダメ人間街道の王道を邁進している感じ。
で、メインが来たころには顔も赤らみ上機嫌。口調も若干、真性オヤジ口調の兆候が現れ始めていた。ホロホロ鳥を煮込んだものだったのだが、私としてはこれの付け合せのきのこ類に注目したい。「香り」を食べていると表現するのが一番相応しいように思う。しかし実を言うとこのメインにはさして集中できなかった。何を話していたか忘れたけれど、友人との会話に興がのってしまって全然ダメ。味覚のほうに意識がいっていなかった。ホロホロ鳥さん、ごめんなさい。なぁんてね。気持ちわりぃ。
メイン後はチーズと決めているのだが、今日はウォッシュタイプとハードタイプと1種類ずつ。ウォッシュはよく知ってる味で、白ワインで洗ったものであった。面白かったのはハードタイプのほうだ。ヤギチーズだったんだけど、今まで経験したことの無いような舌触り。水分が相当少なくなってるのではなかろうか。しかも後味が面白いのだ。ちょっとだけぴりぴりするの。こんなの初めて。デザートも相変わらず美味しかったし、食後はいつも私はエスプレッソをドッピオと決めてるのだけどそれもおかわりしちゃったりして珈琲飲み過ぎ。3時間かけてゆっくりお昼を頂きました。いつもいつも長居してごめんなさい。だって居心地が良すぎるんですもの。仕方がないわ。しかし、エスプレッソを「ドッピオ」って「シャンパーニュ」と同じじゃないか?