ごっこ遊び・冷静と情熱のあいだ編

引越し先のご近所に学生時代からの友人が住んでおり、ご近所で土星を見守る会をやるから参加しないかとのお誘いが。土星を見守った後に私んちに来てケーキを食らうことになったので予めケーキの準備をするべく、夕方とあるデパートのクラランスあたりで待ち合わせ。なんかさー、ケイティさんたら感じ悪いの。少し早めに着いてしまった私が別の友達にメールを書きつつ待っていたら、どこからともなく小さな、しかし確実にこちらに響いてくる低い声で「ふっふっふっふっふ」という笑い声が。なんだと思って顔を見上げたら1.5メートルくらい離れたところからケイティさんが笑ってんの。何笑ってんのさ、やめなよ、どうしたのよ。私が詰め寄っても笑い止らずこちらは困惑するばかり。2〜3分は笑われ続けたね。やっと収まりかけたので事情を聞くと、歯列矯正に挑戦中の彼女はまさにこの日矯正器具を取り付けたばかりで、矯正デヴュー後最初に会った人間が私だったとの事。なんだじゃあ私が可笑しいんじゃなくて自意識の問題じゃんね。勘弁してほしいわー。
ケーキ屋に向かう道中、相変わらず笑いっぱなしの彼女が「面白いことを思いついた」という。「冷静と情熱のあいだごっこをしよう」。なになに?私フィレンツェまた行かんとならんの?と意味が通じていなかったのだが良く聞くとこれから二人で一緒に経験することをお互いに日記に書こうというのだ。面白い!とぽんと手をうち即了解したのであるが、向こうは「しかしこれが面白いのはやってる本人だけかも」。それはそうかも知れぬ。しかし私は自分さえ楽しければそれで満足という謙虚な人間なので乗り気である(なのに書いてるのは3月1日なんだけど)。で今書いてます。ケイティさんはとっくに書いたようだが。すんません。
見守る会会場に向かう間、私は自分の新たなる可能性に気づかされた。よく人と出かけるときに、向かう先までの道順を知らんくせにフラフラと勝手に歩き出す人間がいて、こういう人間はどういうシステムで動いてるのかと予てから疑問であったが、私がそれであった。数メートル歩いてしまった後に「そっちじゃない」と軌道修正。丁字路で「右曲がります」と言われてるにも関わらず思い切り左に曲がりかけてあわや正面衝突である。自分でも何でそんな動きをしたのか皆目分からん。もう私は死ぬのでしょうか。
会場に着くとご近所さんで盛況である。小学生くらいの子どもたちも数名。そして人々に囲まれた中心に大きな望遠鏡が。これ、驚いたことにチャンプの自作だそうだ。チャンプというのは望遠鏡の所有者なんだけど。市販の望遠鏡に飽き足らず自分でレンズ磨いて作ったんだって、3ヶ月くらいかけて。しかも望遠鏡マニアが合宿状態でレンズを磨く会などもあるそうだ。世の中いろんなマニアがいるねぇ。アンテナマニアに出会ったときも驚いたけど。アナタご存知?東京のアンテナは全て東京タワーの方向を向いてるんですってよ?兎に角チャンプの集中力の凄まじさにこちらは脱帽である。
私としては昔とった杵柄というか、一応宇宙論修士取ってるんだから見終わった後に只者ではないという印象を与えられるようなコメントをしたい。何をコメントしようか思案していると前方で子どもが「うわぁ〜!輪っかがある!!」とこれ以上なく純粋で素直な素敵なコメント、というか心で感じたものが外に漏れちゃった、といった風で、隣にいたケイティさんに「どうすんの?もう(あのコメント)取られちゃったよ?」と煽られた。なんだよなんだよ、人の自意識刺激するなよ、と思っている間にもう我々の番である。私は少しでもコメントを考える時間を得ようと心にもないのに「ケイティさんお先にどうぞ」と大人な態度を取ったものの、目の前のやり取りが面白かった。チャンプが接眼レンズに目が届かないお子さんたちのためにビールケース様のものひっくり返して用意していたのだが、我々は大人である。一瞬それをどけようとはしたが「やはりあった方がよい」という判断でそのままにし、ケイティさんがそこに乗ると今度は不自然に腰をかがめなくてはならない。「どけた方がいいですね」とどかしたのだが、私の番で再びビールケース様の物をセッティング。またも「どけましょうか」「あった方がいいですね」の後に私が乗っかり「やはりどけましょう」。読み手には上手く伝わらないのは承知しているが、これが妙に面白かった。ちなみにケイティさんと私とでは、私のほうが若干背は低いかもしれないが大差はない。
そんで漸く私の番。感動しました。もう「なんてコメントしよう」なんて打算は飛んでった。だって目の前に土星ご本人がいらっしゃるのですよ!私の目の前に!ちゃんと輪っかあるの!輪っかと惑星本体の間に隙間があるのも見えるの。ライブ映像ですよ、土星の。感動しないわけがない。そりゃ私は宇宙論って言ったって太陽系の事なんて知らないし、それどころか我々の銀河のことも知らんし、そもそも銀河スケールのことなんてやってないけれど、元々は星空やそういったものに憧れがあるんですよ。だから感動の度合いがその辺の人よりも大きいの!文句あるか。というような事を情熱的に、ただ語気はもうちょっと謙虚に垂れ流してしまいました。チャンプ、ありがとう。土星を私も見守るよ、これからも。
それから私んちに移動して、まあ色んな話をし、ケイティさんが学部生のときに仲間と作った冊子が引越しを機に私んちで発掘されたからそれを彼女に見せてやり、ほしがったが勿論与えなかった。ケイティさんは慣れない矯正器具のためにたかがケーキ、ケイティさん、たかがケーキですよ。挑発してます、ワタクシ。そのたかがケーキ2個食べきるに3時間くらいかかったんじゃないですかねぇ。食べきった時には既に1時を回っており、彼女を家からちょっと行ったところまでは見送ったものの、良い子はもう寝る時間である。睡魔に勝てず、というか勝とうなどという気力はそもそも持ち合わせていないのだが帰った途端に即就寝。そうしたらメールが来て、人が気持ちよく寝てんのに誰だよ、と見るとケイティさんが無事家に着いた、とこちらを気遣って連絡してくれたのであった。すんません、既に寝てました。だって眠かったんだも〜ん。