沈黙に弱い

昔話を一つ。私が大学2年の頃ですな。サークルに入っておりました。社会問題について調べたり議論したり、弁護士に話を聞きに行ったりするサークルだったのだが、ここではその点は重要ではない。夏休みにサークルの仲間とカラオケに行ったときのことである。1年生の男の子がカラオケだと言うのに何故かアコースティック・ギターを持っている。邪魔だなぁ、と思いつつも狭いボックスに入りましたよ。
適当に皆、各々好きな歌を歌っていたのだが、そのギター少年の番になったとき、彼、何をしたと思います?同じ学年の男の子をマイクスタンド代わりにマイク持たせてギター弾き語りしたの。チューリップかなんかの歌。チューリップって分かりますかね?フォークソングって言うんですよ、ああいうの。上手けりゃまあ良かったかもしれないけれど、歌、途切れ途切れ。だってギター弾くのに必死なんだもん。そしてこのギターがお世辞にも上手いとはいえない。何度も間違って元に戻って引きなおしたりするからカラオケについていけないの。その時点で十分苦しかったのだけれど、本当に苦しかったのはこの後だった。
歌い終わった後、カラオケに来ているなんて嘘じゃないかと思うくらいの静寂に包まれたんだよ。皆誰も口を開かない。その沈黙が苦しくて苦しくて、どうにかして破りたいと思った私は「いつからギター始めたの?」などと聞いてしまった。そうしたら「…大学に、入ってから…」。「まだ3ヶ月くらいなんだ。にしては上手いね」などと心にもないことを言ってしまったのだよ!私は。「…普段はもっと上手く弾けるんだけど…」、もう会話が苦痛で苦痛で仕方がない。
帰りがけにその場にいた友人に「なんであの時何も言わずに黙ってたのよ。何か言ってよ」と恨み言を言ったら、
「あの場で口を開いたら私の負けだと思ったから」
我が友ながら感心しました。本当だよ、私はすっかり負け犬だよ、そう思いましたよ、あの時。だって沈黙を破った自分が悔しかったもん。その日を境に、気まずい沈黙に耐えられるよう精神の鍛錬を行いましたが、今でもまだ不十分。今日は何故か一日中このせりふが頭の中を駆け巡ってました。