FS線のバンビ

金曜締め切りであると思い込んでいた(というかそう勝手に決定していた)ものが、実は木曜締め切りと判明して愕然。明後日じゃん、どうすんの?私。ピンチだピンチ。まいっか、泊まればなんとかなるでしょ。わ〜い、これで1冊また私が手がけた本が世に出るぞ。というか私が始めから終わりまで全部やった本はこれが初めてだ!嬉しいなあ、って喜んでる場合じゃなくてちゃんと仕上げなければ。しかし嬉しいなぁ。締め切りの日は映画を見に行くと決めているのだ。だってそんな日くらいは早く帰ってもバチあたらんでしょ?それで今までも緑玉紳士にノルシュテインを見に行ったのだから。尤もノルシュテインには完敗してるのだが。もいっこのプログラム見に行こうか、ノルシュテインの。だとしたら金曜かな〜。水曜日泊まりで木曜日に色校戻し。確実に映画を鑑賞するには十分な睡眠が不可欠だ。
暑くなるとイタリアを思い出す。あの酷暑の中その能力の最大限まで詰め込まれたスーツケースを転がしながら、フィレンツェからローマへと向かったあの時。たった3カ月の滞在とはいえ往路とは比べ物にならんくらいに膨れあがった私の所持品は、スーツケースが30kg超、機内持ち込み荷物が15kg程度であったか。交通手段はユーロスター。エウロスターだ、初めてだ。貧乏人に特急料金のかかる列車など勿体ない。イタリア国内旅行は基本がレジオナーレ、普通電車。インテルシティをインテルシティじゃないフリして普通運賃で乗ったことはあったが。あの時は車掌がまわってこなくって本当に助かった。フェッローヴィエ・デッロ・スタートの怠慢に感謝する次第である。
初めてのエウロスターに浮かれるのは良いのだが、乗車前に一つ関門があったのである。それはなにか。欧州列車旅行をされた方ならご存知と思うが、基本的にホームはえらく低い。故に列車に乗り込むにはステップを上がる必要が生じるのである。自分の体重以上に重たい荷物を抱えた私に、どうしてその関門を越えられるであろうか。重いわ上がれない、このままじゃローマに行けない日本に帰れない、などと一人電車の前で周章狼狽して周りの人間に私を助けさせるべく圧力を加えるのであろうか。そんな情けないことを、どうしてこの私ができようか!
火事場の馬鹿力とは、ほんとうに“ある”んだと知った瞬間であった。
機内持ち込み荷物を担ぎ、両手でスーツケースを持った私はその重さ故に生まれたてのバンビの如く両足を震わせながら、だが確実に歩を進めていた。一歩一歩着実に進むと、既に車内に乗り込んでいたイタリア人紳士が「私にも協力させてくれないか!」といった面もちで手を差しだし、最後に完全に上がりこむための一助となってくれたのであった。その場にいた全員を感動の渦に巻き込んだ私のエウロスター初乗車であるが、上がってみるとなんてことなく皆平然。私も普通に着席しておったら中国人のおっちゃんに話しかけられたりして、だからどうって話でもないのでオチがない。書いたことにいかように終止符を打つべきか現在若干困惑気味であるが、困惑気味であることを読まれている人に同情されても業腹なので脈絡もなくここで終了。