「出る杭」その後

土曜日の例の飛び出たティーバッグだが、あれから他のティーバッグが消費されていったために箱の中に徐々にゆとりができ、次第にその飛び出し具合は収まっていった。最終的には他の物と変わらぬ高さまで沈み込み、どれが飛び出たティーバッグであったか見分けが付かなくなってしまった。…まさに人間社会の縮図。他より飛び出た変わり者も、周囲に相手にされないことから自身の異端具合を認識するに至ってその行動を自粛し、ついには社会に取り込まれてゆくのだ。かくして子供時代の変わり者も大人になる頃には立派なサラリーマンに大変身だ。なんだか暗い気分になってきたぞ。
かくして大抵の日本人は大人になる頃には凡庸になっていくのであるが、そうはならなかった例が私の身近にある。何度かこの日記にも書いた会社の「ハナかみ自己アピール」氏である。彼は自分からは人に声をかけず、周りの人間が自主的に自分に声をかけてくることを望むという傲慢な精神の持ち主である。入社したての時期(彼は新卒だ)は花粉症の時期ということもあってニセモノの鼻水をかみまくり(ハナをかむ音が非常に乾燥していた)、私の見積もりでは1分間に3回はかんでいたのだが、そのハナかみ音たるや、会社中に響き渡るような轟音。それにそんなペースでハナかんでたんじゃ仕事になるわけがない。更に、ちょっと静かになったな〜、と思って様子を窺うと居眠りしているのだ!
4月下旬から5月中旬にかけての彼のブームは咳であった。その頃会社中で風邪を引きながらも徹夜で仕事をする人が何人もおり咳き込む人も多々見られたために、時流に乗り遅れてはいけないと思ったのであろう。当初は彼の挙動がちょっとおかしな感じであったことと、元々この会社は人見知りする人が多かったために彼に対して距離を置く人が殆どだったのだが、もうこの頃になると皆明らかに彼の存在を迷惑がっていて(当然だろう、五月蠅くてかなわん。仕事の邪魔)意識的に避けるようになっていた。彼の疎まれる原因をここで一旦整理してみよう。

  1. 五月蠅い
  2. 五月蠅くないときは寝ている
  3. 人に労われたがる*1
  4. 人に感謝されたがる*2
  5. 間違ったことをしても、訳の分からないことをまくし立てて絶対に謝らない*3
  6. 誰かが雑談をしていると、自分も混ぜてもらえないかとにじり寄りつつ相手を凝視し「早くこちらに声をかけろ」と言わんばかりの雰囲気を醸し出して圧力を加える

何といっても、誰よりも働いていないのに仕事に関して褒められたがり、周囲の人間に全面的に自己の存在を受け入れられたいという点によって、彼は敬遠されているのである。自分の行いを客観視できていないところに彼の不幸の源はあるのだが、そうはいっても彼だって辛いのである。追いつめられた彼のとった行動とは。狭い給湯室に誰かしら女性が一人でいるときに、入口に佇んで中にいる女性が出ることを拒みつつ誰かが入ろうとするのも拒み、精神的には監禁状態で「僕もっとみんなと仲良くしたいんですけど」と言いつつ仲良くしようとしない相手やその他の人々を言外で責めるのである。
(つづく)

*1:休日出勤させられたことをアピールすることによって「頑張っているね」「大変だね」と言われようとしているのだが、平日に居眠りしていなければ確実にこなせる仕事量である。寧ろ休日出勤する為に平日寝ているとしか思えない。

*2:掃除当番でもないのに勝手に掃除をし、徹夜明けで自分の机で寝ている人にまで雑巾片手に「机拭きましょうか?」と言って起こす。

*3:それどころか「マニュアルないんですか?」などと言う。その発言が「僕は考える能力のない使えない人間です」と同義であることに気づいていないのである