小3までに育てたい算数脳

高濱正伸著 \1575 健康ジャーナル社 ISBN:4907838263
タイトルを見たときには大変いかがわしさを感じ、「これをやればアナタのお子さんの学力は恐ろしく上がります!」見たいな事を書いてんじゃないだろうかと疑っていたのだが全然違った。私は学生時代からずっと家庭教師をしており、ちょっと前まで教育で食っていた身であるのだが、約10年近い家庭教師生活の中で辿り着いた、教育に対するある種の結論めいたものと大体同じことが書いてあった。
子どもの学力を上げようと必死になるあまり、あれがダメこれがダメとダメだししまくり「ちゃんとやりなさい」とか「なんでできないの!?」などと言う親は結構いるのではないかと思うが「そういうあなたは子どもの頃から完璧でお勉強もできていたの?」と問いたい。日本の教育の在り方自体も問題なんだけど、あまりにも「唯一絶対の正解」の存在を過信しすぎ、間違ったために能力が低いと断定されるのを恐れて、課題が与えられても自ら解こうとはせずに「やり方」を「指示」されるのを待つ子どもが多すぎる。で、いつも「間違うんじゃないか」と疑心暗鬼でビクビクしてんの。こういう子は不幸だなぁと思う。
運動能力に差があるのと同様、勉強においても当然生まれ持った能力の差というのは存在するのだけれど、ある程度のことは考えればできることが多い。「自分はこれは今はあまりできないけれど、あれは結構できる」といった風に客観的に自分の能力を認識できている方が幸せだと思うけれどな。石橋を叩いて叩いてそれで結局渡らない、本当はやれば出来たかもしれない事に対しても挑戦できない子はやっぱり不幸だと思う。
で、この本では子どもをそういう子どもに育てないように気をつけるべきことなどが書かれているのだが、やっぱりタイトルだけ見るといかがわしい。しかしある意味成功している。こういうタイトルに飛びつく親ほど「あれしなさいこれしなさい」とウルサイ可能性が高いと思うし。大抵子どもの能力潰してるのって親だからなぁ。
中にこんな具体例が示されていた。子どもが魚を見て「このお魚大きいねぇ!」と驚いているときに、その驚きに共感してあげることで感受性を育てたりできるわけだが、「そんなこと決まってるじゃない、マグロなんだから」などと答えていると次第に子どもは感性が鈍くなると。私はこれを読んだときねぇ、笑いました。あぁ、マグロだったんだ、と。そんなこと一言も書いてなかったからな。それから「決まってる」の部分。決まってないよ、何言ってるんだこの母親、初めてマグロを見た子どもが、それが魚だという事は分かってもマグロであるなんてことを知っている筈がないし、よもや「マグロ」=「大きい」などとい関係を認識している訳がないだろう、バカだなぁ、と。ふざけてるのかと思った、母親が。でもここって笑うところじゃないんだよな、本来、と気付いたときにぞっとした。怖いねぇ、論理性のかけらもないねぇ。子どもの教育という話を通り越して、こういう論理性と客観性を持ち合わせない大人が存在することが怖いよ。
思考停止して思い込みで生活している人間というのは結構多くて、私自身もそれに当てはまる部分があるかもしれないのだけれど、そのような状態に対して危機意識がないことが怖いなと思う。大人になってからそういうところを改善するのって難しいのかな。人間関係にしても仕事にしても「この人嫌な人だな」「つまんない仕事だな」と思ったまま思考停止してイライラしたままでいる人は不幸だと思う。自分から状況を変えたり見方を変えることによって気持ちの整理をつけて楽しく生活したほうが幸せだと思うんだけどなぁ。でもますます話が広がっていってまとまる気配がないのでこの話はここで終わり。今日は寝ます。