疲れた猫を追い掛け回す

池袋のハンズ8階には常時20匹の猫たちがいて、疲れたOLやらオバサンの心を癒してくれるという話を小耳に挟んだのは今年の1月頃だったろうか。気になってはいたのだが「ハンズなんていつでも行けんジャン」と思って後回ししたままでおり、今すぐやれることを後に回すから私の人生ダメなままなのだわ!と一念発起し行ってきた。
入場券を購入し入り口のドアを開けたらすぐ目の前に疲れた目つきの大猫が座り込んでいて吃驚。明らかにその目は私の入場を歓迎していないのだが、そうはいってもこちらは「可愛いネコチャンたちと遊べる!」と若干興奮気味のままやってきているのだから当然好意的に解釈し、まあアナタ営業部長なの?イイコチャンねぇ〜!とほめまくった。しかしその、敢えて現実を直視せず、都合の良いように世の中を解釈する戦略はすぐに頓挫した。確かにいたるところに猫がいるんだけれど皆寝てる。思いがけないところに入り込んで寝てたりもするのでぎょっとさせられるのだけれど、皆一様に生気がないのである。猫の寝込みを襲うと悲しい目*1にあうのは、幼い頃から猫と生活を共にしていた私は嫌というほど分かっていたのだが、ついにその禁を犯して触ってしまった。
するとどうでしょう。微動だにしないのである!
いやもう驚きましたよ、本当に。うちのたびちゃんなんかさ〜、玄関のチャイムが鳴るだけで吃驚しちゃってパニック状態。部屋中を走りまくって最後はピアノの陰に隠れてぶるぶる震えるという体たらくなのに。なんでこんなに人に動じないワケ!?わたしゃもう猫に対する認識を改めましたよ。そうやってちょっと唖然としつつも臭い物には蓋、現実を認識しないようにし、目をギラギラさせながら遊べそうな猫を探したら1匹だけいた。威勢のいいのが。部屋中トコトコ歩き回っていて好奇心旺盛そうな目つきをしているのでコレだ!と私が近寄ると逃げ始めた。そうはさせじとさらに追いかけかなりみっともない追いかけっこ。当然ながら猫のほうが足が速いので、こちらは脚力じゃなく頭脳で勝負!とショートカットし先回り。猫が曲がって入ってきたところで私が身を躍らせ登場したらすんごい吃驚してた。私の勝ちか?違うね。すっかりおびえたその猫はもう人の目に晒されないスペースに入り込み、結局それから私が退場するまでの間、一度も出てこなかった。猫と遊ぶという目的を達せられなかった以上私の負けなのでしょう。おかしいなぁ。こういう追いかけっこはウチの歴代の猫たちは大好きだったのに。
改めて室内の壁面を見てみると、本棚になぜかニセのビデオケースなどが置いてあり、タイトルを見ると有名な作品のパクりだった。「俺たちにアジはない」とか。この施設、「猫の楽園」みたいな触れこみ(私が勝手にそう思い込んだだけかもしれない)だが、実際は大勢の人間に好き勝手に触られまくってすっかり厭世的になってしまった猫たちの棲家であった。かわいそうだな。これなら野良猫と遊んだほうが楽しいかもしれない。目が生き生きしてない猫なんてね。本来彼らは何か遊ぶ気さえあれば実によい表情をするのだけれど、ここの猫たちにはそれが一切見られなかったよ。かわいそうに。だからもう私はこういう施設で安易に猫と遊ぶことを考えずに、近所のヒモちゃんといかにして仲良くなるか、日々戦略を練ることに専念したいと思います。

*1:寝ている猫の頭を撫でたりすると相手は当然目を覚ますのだが、それに留まらず、これ以上ないほどに、人生でも早々こんな事されないだろうと思うほどに、心底人を軽蔑した眼差しで眺めてくるのだ。そして一瞥をくれたあと、耳だけ変な方向に曲げたまま寝たフリをして終了。