バレンタイン悲喜交々

今朝、道ですれ違った小学4年生くらいと思しき少年が、
「バレンタインもらえなかった…」
とぼやいていたのを耳にした。そういう話を友達にしてしまうところが可愛げがあるとも言えなくもない。私としては「気にすんなよ!そんなこと!」と言ってポーンと肩を叩いてやりたくなったが、そんなことしたら明らかに怪しい大人になってしまうので自制。心のうちで想像するに留めておいた。
そんな彼のおかげで思い出した私の子供時代。やはり小学生の頃に同級生の男子で、こういう時期が近づくと1人でいる女子にそっと近づき「ちゃんと絶対お返しするからチョコ頂戴」と言って回っていた者がいた。それがふざけた調子なんかではなく、結構真剣に上目遣いで相手の顔色うかがうようにしてお願いしてくるのだ。そこまでして欲しいか?チョコが、と当時も思ったものだが、今でもそう思う。日ごろは自分の欲望に忠実で、そういう感情を隠したり直視しなかったりする人間なんかより正直な者を好む私であるが、この場合の率直さには少々困惑した。お返し欲しさでプレゼントするのも即物的で嫌だし、それ以前に彼に好意を抱いていると思われるのは誠に業腹であるからね。しかしこんなに真摯なまなざしでお願いされているのを拒絶するのも難しい。ということで私は一番卑怯な手段に訴えた。分かった、と言って忘れたふりしただけなんだけどね。
そういやこんなこともあった。クラスの男子生徒の母親と私の母親との仲の良さに起因した習慣だったのだが、その男子生徒に対して私の母がチョコを買って、どうやって渡したんだか忘れたが学校ではなかった、とにかくどこかでどうにかして彼の手に渡るようにし、それを「私がプレゼントした」ということにさせられていたのだ。私としてはあんまり好ましくない習慣だったのだけれど異論を唱える余地もなく、小学生の割に冷めていたので、事を荒立てないためには権力者(=親)に従うしかない、と諦めていた。
そんな習慣のことをついぽろっと同級生の女の子に話してしまい、念入りに口止めをしたのだがその翌日にはクラスの全員が知るところのものになっていた。朝、教室に一歩足を踏み入れた瞬間にクラスメイトの女子に「○○くんにチョコあげるの?」と聞かれたときの私の衝撃よ。自分がどこの世界にいるのか一瞬分からなくなり、クラクラしたものであった。
なんだかねぇ。バレンタインなんか馬鹿馬鹿しいからやめたほうがいいよ。あるいは私が一方的にチョコをもらえる日に変わるのであれば、バレンタインもやぶさかではない。チョコは高いよねぇ。あれは自分で買うものじゃなくて人からもらうものだね。ということでバレンタインは過ぎましたが恒常的にチョコ受付中です。いつでもください。お返しは、どうしようかな。