私がうかつでした。

いつも毎朝通る道沿いに小さな食料品屋があり、いつも物ほしそうにそこで売られている菓子類を眺めていたせいか、いつのまにやらそこのオヤジに顔を認識されて挨拶されるようになったということは前にも書いたのだが、今朝学校に行くときはいつもと違って挨拶だけでなく、店の中に手招きされたのであった。何事かと思いきや「ハッピー・クリスマス!プレゼントに何でも好きなものを店の中から選んでいいよ」と言うではないか!
えぇ!と驚きかつ躊躇いながらも喜色満面で物色し始め、本当に何でも言いというので調子に乗ってビールを選択。だって今まで飲んだことなかったし、マルタのビールに興味があったんだもん。CISKっていうんだよ、マルタのビール。学校に持っていくのは躊躇われるが、夕時にビールを飲めると思ったらそんな躊躇いなんか吹き飛ぶんである。わ〜い、ビールが飲めるぞ、と喜んだのもつかの間、オヤジがビール開けやがったのだ!
おい、今飲むのかよ、赤ら顔で登校かよ。いくらクリスマス明けだからって頭おかしいと思われるじゃないか、などと思いつつ、人の善意を無にすることもできず、慌てて飲んだのだが、あんまり強くないんですよ、私。というかゆっくり時間かけながらだとワイン1本くらいならのめるのだけれど、一気飲みなんてことはできんのです。度を失わない程度に留意しつつ可能な限り早く飲んでいたのだけれど、途中オヤジが「昨日脚立から落ちて腰を打った」などといって軟膏を示しつつ、見せてくれなくていいのに自分の腰をシャツをまくりあげて見せ付けてくる。毛むくじゃらの腰を。うぇ、見たくない…、と思いつつ「大変ですね」とか言ったら「ちょっとここに軟膏を塗ってくれないか」とか言ってきたのだ。
このオヤジはひょっとしたら危険なオヤジかもしれない…、身の危険を感じつつもビールをもらった負い目があるため無碍にもできず、かといってあの毛むくじゃらの腰には絶対触れたくない。ということで「日本人の女性はむやみに男性に障ったりしないのだ。そのような習慣は日本人にはないのだ」と文化の違いを理由に断ってみたのだが、「君は独身なんだろう、ならいいじゃないか」としつこい。3回くらい頼まれたけれどとにかく断り事なきを得たのだが、私がビールを飲み終えて店を出ようとしたら両手を広げて蛸のように唇を突き出し、キスを迫ってくるではないか!!
ええもう殆ど逃げるようにして家に帰ってきました。あぁ気持ち悪い。ほんと気分悪い。いや無論私も悪いんだけどさ。毎朝顔をあわせてるからって油断したらいけなかったんだけどさ。あ〜気持ち悪い。腰を打ったっていうのも絶対嘘だよ。日本で何度ももっと危険な目にあってるから流石にこの程度のことで動揺したりショックを受けたりはしないんだけど、気持ち悪いことには変わりないよ。ホストマザーに話したらどうも前にも同じことがあったらしく、やはりこの家に滞在していた日本人女子があのオヤジにチョコレートをもらい、お礼を言ったらキスを迫られたらしい。もうホストマザー大変に怒って警察に通報してて、いやこちらにも落ち度があるからそこまでしなくても、とちょっと思わないでもなかったが、まあいっか。ちょっと警察に怒られるくらいのことがあってもいいかも。ホストマザーいわく「若い男の子にだってそんな事されたら気分悪いのに、ましてやあんなオヤジなんて!」と。まったくその通り。そしてひとしきりあのオヤジに関して怒った後、私にも多少のお小言がありました。「もう30歳なんだから、ちゃんとしてね!」って。ますますその通り。以後気をつけます。