隣のセルビア人

エクスカーションに参加してカルタゴ、シディ・ブ・サイド、チュニスへ。カルタゴではローマ時代の水道橋、子どもの墓なんだかいけにえにしていたんだか分からないけど子どもの焦げた骨が出土しているトフェ、ローマ劇場、古代カルタゴの港など。シディ・ブ・サイドでは貴族の館博物館、チュニスはバルドー博物館でローマ時代のモザイクと彫像を見ただけ。さすがにチュニスには多少日本人がいますね。久しぶりに日本人に会い、日本語も久しぶりだったので妙におどおどしてヘンな人みたいになってしまいました。
英語ガイドつきのツアーだったのでゆっくり自分のペースで見るということは不可能で、だから疲れた印象のほうが強いのだけれど、それでも面白かったのはローマ時代の遺跡が本当にここの国の過去に存在したものであるという事実。ローマでローマ時代のものを見ても違和感ないというか、今のイタリアもあの時代の延長線上にあるのがわかるのだけれど、今のチュニジアというのは、まあ民族がローマ時代とは違っちゃってるせいもあるけれど、確実にヨーロッパ世界とは異なりアラブ世界で、全然ローマ時代の延長にいないのに、それでもここの国に確実に、ローマ人が支配していた時代が存在していたということが面白いですね。駆け足で巡った感は拭い去れないけれどガイドもついたしそれなりに満足。そうそう、それと他にも面白いことがあって、シディ・ブ・サイドの貴族の館ではチュニジアの各地域ごとの婚礼衣装をまとったマネキンが展示してあったのだけど、ガイド氏によるとチュニジアの婚礼は基本7晩続けて宴会で、最近は簡略化されてきたらしいのだけれどそれでも2晩、そして花嫁はちゃんと7晩分の衣装を着るそうだ。だからお色直し6回。凄いねぇ。
帰りのバスの中で、ほとんどの人が誰かしらと一緒に参加していて一人参加であったのは私くらいのもので、なので隣の席が空席の状態で広々と座っていたのだけれど、前に座っていた男女二人組みのうちの女性のほうが突然私の方に振り向き「英語は分かるか」というので「多少は」と答えると「疲れているので横になりたいから席を替わってくれないか」と。なんかよく分からんが急き立てられてつい席を譲っちゃったんだけど、よく考えると私も眠かったのだが。なぜ席を替わってしまったのだろう、ばかだなぁ。そしてその女性のパートナーである男性の横に座ったのだけど、この男の人自分の席から大幅にはみ出てて非常に私の席は狭い。ますます席を替わっちゃったことを後悔。
なんというか、ヨーロッパの人々はその場で顔をあわせただけの人とでも会話を楽しむ習慣があるというか、だから当然彼も私に話しかけてきたのだがこれが全然話が合わない。ここまで話題が合わない人ってなかなかいないよ。たとえば、好きなアメリカのドラマシリーズは、と聞かれ、そもそもアメリカのドラマをあんまり見る習慣が無く見たことのあるものといったらビバリーヒルズ青春白書くらいのものだったのでその名を挙げると「古い。15年前だぞ」と一蹴。仕方なく見たことも無いのに「セックス・アンド・ザ・シティ」の名を挙げると「くだらない。時間の無駄」と。そして次は最近見た映画は何か、という話だったので、彼が知ってそうなので最近のだと「チャーリーとチョコレート工場」くらいのものだったので答えると「古い!1年半前だぞ!」と。多分知らないだろうなぁと思いつつケン・ローチ麦の穂をゆらす風」を挙げるとやっぱり知らない。この話題を諦めたのか「趣味は?読書とか?」と言ってきたので「読書だけど」と答えると失笑。趣味が読書で悪いかよ。そして「本は読んでても映画は見てないんだな」となんか小ばかにされたのであった。あんたのいうところの映画ってすなわちハリウッドでしょ?ばーかばーか、と思わないでもなかったが無言。だってあんまり喋りたくなかったんだもん。
聞けばこの彼、セルビア人だという。おお、共通の話題があるぞ。クストリッツァが好きだといったら「あぁ、自分はあんなの大嫌いだけどな。あの映画が好きでセルビアに来ても何も面白くないぞ」と。本当に話が合わないわ。ついで仕事の話になり、彼は26歳なんだけれど自分の仕事の忙しさ自慢をしてくるので(といっても「たまに1時2時まで働くことがある」って程度だ)それなら私も、と過去に月400時間働いていたことを話すと「なんで辞めたの?」と。体の具合が悪くなったからだ、と言ったらなんて答えたと思いますか。「あぁ、君は4歳も年上だもんな。25とか26くらいならそれくらい働けるけどな」だって。これに対して私、「愚かな若者だ、そういうことは実際にやってみてから言いたまえ」などと思う前に私が年寄りであることを強調されたことに業腹。うるさい。年寄りっていうな。
そして「つまらないことがあると両手で目じりを下げて“中国人のマネ”とやり、楽しいことがあると両手で目じりを上げて“日本人”と言うのだ」と言いつつわけの分からん言葉を喋って「日本語のマネ」と。これね、吃驚しちゃうかもしれないけれど、この彼全然悪意とかはないの。完全に無邪気なだけで、彼にとってはこれが楽しいらしい。本当に。しかし私にとって面白いわきゃないのだ。彼の英語は非常に聞き取りにくく、たまにセルビア語になっているときもあり、そしてこんな話でしょ。もううんざりして適当にうなずいてたら「分かってないのに分かった振りしてうなずいてるだろ」と言われた。その通りなんだけど軽く怒って「ちゃんと分かってるよ!」といい、それ以降は分からないときは「何言ってんのか全然わかんない」とか言うようになったのだけれど、何故か私がこう、彼に対して気遣いをせず思ったとおりの反応をしたほうが喜んでんの。最後にはメールアドレス交換したりして。
私のセルビア人経験というと2年前にアエロフロートでモスクワに向かっていたときに、通路を挟んだ反対側にセルビア人が乗っていて、機内食として出されたのが日本食で箸もついてたから普通に箸で食べてたらなんの断りも無く至近距離でフラッシュたいて写真とられたくらいのものなんだけど、このときの彼も全然悪びれてなかったなぁ。二人しか知らずに言うのもなんですが、セルビア人って割りと思ったことを素直にそのまま口に出したり行動したりする人々なのでは?と思ってしまった。バスで隣り合った男子に対して私が「こいつ感じ悪いなぁ」と思っていた間、彼もわりと機嫌が悪そうだったのだけれど、どうも私があんまり自分から話さなかったり彼の話に対して「へぇ」というだけであんまり感想を述べるなどのことをしなかったからではないかと思う。だからその後彼の言っていることが正しくない場合などに「全然違う」などとストレートに感想を言ったほうが喜んだのではないかとも思う。やはり外国人とコミュニケーションとるのって難しいもんですね。習慣とか礼儀正しさの尺度なんかが違ったりするから。あぁ、私が慣れてるのってヨーロッパだけだと思ってたけど、イタリアとかマルタとか南のほうだけだわ。チェコなんかも南欧とは全然違ったもんね。やはり見聞を広めるためにもっと旅行せねばならんと思うのでした。