イギリスだより

イギリスだより―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

イギリスだより―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

旅行エッセイというのは多々あるけれど、なんだかへんてこりんだなぁ、といった感想を持ったエッセイはこれが初めてだと思う。中学から高校にかけて紅茶の銘柄やら美味しく淹れる方法に熱中した時代はイギリスが非常に好きで、しかしその後どうでもよくなり、先だってのマルタ(=田舎)滞在を経てのロンドン(=都会)が非常に刺激的であったために、イギリスに対する印象がやや上向いていたからこの本を購入したのだが、チャペックの目を通してイギリスを見るとこんなにも面白いとは。まず帯の惹き文句に心を鷲掴みだ。

「イギリス人は古い木でできている」

本文にも魅力的に面白い箇所が多々あった。例えば、

この島は、美しくて貧しい。ここでの原初の小屋は、まったく歴史以前のように見え、まるで今は亡きピクト人たちが建てたかのようである。ピクト人たちのことは、よく知られているように、なにも知られていない。

訳もいい気がするね。他には、

かつらをかぶったイギリスの法律家を初めて見たとき(それはエディンバラでした)、わたしは、イギリスの伝統主義の秘密の一つを理解しました。つまり、ユーモアの感覚です。十八世紀のかつらをかぶるほうが、歴史的でない、ふつうのはげ頭をのっけているより、ずっとおもしろみがあります。多くの場合、古い伝統を保持する能力は、おもしろみを傷つけまいとする、あなたがたの善意から生ずるように思われます。

バーナード・ショーについてイラストつきで紹介し、

これはほとんど超自然的な人物、バーナード・ショー氏である。たえず動いてしゃべりまくっているものだから、これ以上よく描けなかった。おそろしく背が高く、細くてまっすぐで、半分神様のようで、半分は非常に意地悪な半獣神サテュロスのようだ。
このサテュロスは、何千年にもわたる昇華作用のおかげで、自然に近すぎるものをすべて失ってしまった。白い髪、白いひげ、非常に血色のよいばら色の肌、人間とは思われぬほど明るい眼、がっちりした好戦的な鼻を持ち、ドン・キホーテの騎士のようなところ、キリストの使徒的なところ、そして、この世の中のすべてを、自分自身までをからかって喜んでいるようなところがある。
こんなに普通でない生物は、見たことがなかった。ほんとうのことを言うと、怖かった。

私が旅行エッセイを読む場合、舞台となっている国に興味があるので情報収集のためであることが多いのだけれど、そういう目的じゃなく読んだ方が断然面白く読める気がする。カレル・チャペックいいなぁ。大好きだ。