ボディをビルディングする喜び

インド以来高まり続けている旅行に対する意欲であるが、私の様子を見たうちのやつが「旅行のかわりにこれでも読めば」と手渡してきたのは沢木耕太郎の『深夜特急』であった。この本の存在は随分前から知っていたのだけれど、なんとなく食指が動かずこれまで読んだ事がなかった。で、読んだら面白かった。かなり面白かった。最後なんかもう、ちょっと感動的になってんの。デリーからロンドンまで乗り合いバスで行く、という旅だったのだが、インドに行く前に立ち寄ったマカオではカジノにはまり、一時は1200ドルも失ったりしていて読んでるこちらはハラハラするというか、ダメな子どもを持った親の心境というか。ああもうダメだこの人は…、と、なぜか断腸の思いで人を見切るような気分になった、というのは十分この本に引き込まれていたということであろう。その後紆余曲折を経てモナコにまで辿り着いた時には再び『マカオで失った分をモナコで取り戻す』的なことを言いはじめて、更生したと信じた息子に裏切られた気分になったりもした。
旅行できない代わりにこれを読んで気を紛らわせれば、という話だった筈なのだが、中身が面白すぎたせいでますますやる気が出てきたというものである。もう私は絶対今の仕事を辞めたら再びインドに行こう、きっと行こう、と固く決意。今度インドに一人で行った暁には貧乏旅行をする予定だから荷物は無論バックパックで運ぶことになるわけで、更には治安の悪い場所をくぐり抜けなければならない局面もあるだろうからやはり今必要なのは基礎体力をつける事であろう、と俄に筋トレを開始。毎日腹筋に腕立て伏せをしているのである。やっぱ暴漢に教われたらパンチのひとつやふたつを繰り出さねばならんもんねー。三十年以上生きてきて初めて知ったのだけれど、筋肉をつけるって、楽しいですね。身体的変化というのは目に見えるのでモチベーションを保ちやすいのである。ボディをビルディングする喜び、である。ボディビルダーと呼んでくれても構わない。間違ってないでしょ? 筋肉つけようとつとめてるんだから。そりゃまあテカテカにはなりたくないけどさ。
不満なのは毎日腹筋のみは筋肉痛になっているというのに、腕は全然筋肉痛にならん事だ。効果がないってことか? あるいはもう1日遅れと言わず3日も4日も遅れて筋肉痛が出てくるという事だろうか。筋肉をしっかりつけ、唐突に意味が分からんくらいにすごいヨガのポーズをとって人々をギョッとさせたい。人をギョッとさせるのは本当に楽しい事だなぁ。周りの連中をギョッとさせ続ける人生を送りたい。意外性って、面白いッスよね。言い換えると私は見切られるのが本当に大嫌いだ。行動を先読みされたりさぁ。見切られるとそれが図星でも「分かった風な口をきくな!」と説教たれたくなる。面倒くさい性格。