思いがけず美術館めぐり

Marquis de Sade

今日はもともと美術館に行こうと思っていたのだが「頑張らない旅」を標榜している都合上、1ヶ所しか行くつもりはなかった。プラハ城の正門前にある美術館だ。いつものように地下鉄とトラムを乗り継いで赴いたそこで私が目にしたもの、それは美術館3館セット入場券。1ヶ所観るだけだと150コルナなのに3ヶ所観ると何故か240。…安い。貧乏旅行者であるワタクシに抗う術はなく、当然買っちゃいましたよ。しかし3ヶ所ともなると流石にちょっとは頑張らんとこなせないね。
1ヶ所目は矢鱈とイコンがあり、正直言ってさして面白くもなかった。そして唐突に、なんかエル・グレコ的なものがあると思っていたらエル・グレコそのものであった。プラハエル・グレコって言われてもピンと来ない。ゴヤもあった。それぞれ一つずつ。ブロンツィーノも一つ。しかしこの辺りは既にスペイン・イタリアで散々観ているのでどうでも良いのである。
2ヶ所目はマニエリスムが主なのだが私好みのものはあまりなかった。ところでハゲでヒゲの老人がされこうべを傍らに勉強していたら、それは聖ヒエロニムスだと思って差し支えないだろう。上半身裸の女が自分の胸に短剣突き刺していたらルクレツィアだ。この2つのモチーフがもともと好まれていたのかそれとも私の好みなのかは不明だが、欧州で絵画を観ると確実に複数観かけるモチーフだ。
しかし今日一番面白かったのは、この旅では行くつもりのなかった3ヶ所目である。中世美術を集めた美術館だったのだが、絵画よりも彫刻の方が数が多かったんじゃないかと思う。そしてこの彫刻というのが今まで私があまり見かけなかったタイプのものだったのだ。イタリアなんかでは彫刻と言ったら当然大理石な訳だが、ここではその殆どが木彫り。そして彩色してあるのだ。この木彫りのキリスト像がなんともいえない雰囲気を醸し出していた。顔つきもイタリアでよく観る大理石のそれとは全然違う気がするのだが、これは中欧で馴染みやすい顔になっているのだろうか。明らかにラテン系の顔じゃない。ところどころ虫に食われていたり朽ちかけていたりして素朴な感じである。なんでなんだろうね。中欧って大理石が出にくいのかな。イタリアなんかじゃ未だにカッラーラに行くと大理石だらけだけど。芸術作品というよりは人々の信仰心の結実のように思えましたよ。なんというかそのキリスト像、マリア像の周辺にいた人々の心情が感じられる気がしました。なんてちょっと感傷的になっておりましたが。いや、とても興味深く面白かったです。
ところで思い出したけど、一番最初に入った美術館で見た、マリアに抱かれたまだ赤子のイエスの絵。イエスが手にした紙に以下の文章が書かれていました。
EGO SVM LVX MVNDI.
これを見て、釈迦が生まれて直ぐに7歩だか何歩だか忘れたけれどいきなり歩いて「天上天下唯我独尊」と言ったあの話を思い起こすのは私だけでしょうか。精神性は同じ気がするんだけど。結局釈迦が、とか、イエスが、という事ではなく、信じている側がこういう性質を信仰の対象に求めてしまうんですかね。わかんないけど。素人考えなので。知っている人、教えてください。